創薬理論化学


研究概要

 理論・計算化学、情報化学は今日、研究室や実験室のレベルを超えて、製薬企業等多岐に渡り、産業界での需要が大きい基盤技術となっている。19 世紀に入るまでの薬に関する知識はもっぱら伝承であり、その内容についての科学的検討はほとんどなされていなかった。しかるに20世紀の物理学・化学・生物学の著しい発展は、薬がなぜ効くかを解明すると共に、生体現象を物理化学の言葉で説明し、新薬を発見するための大きな原動力となった。

 一例として、エイズの治療薬であるHIV-1プロテアーゼ阻害剤の開発経緯を以下に紹介する。1983年のエイズウイルス発見に続く80年代後半のHIV-1プロテアーゼのX線結晶解析法による立体構造決定は、新規エイズ治療薬を生み出す大きな契機となった。抗エイズ薬を創製することは、薬物受容体であるHIV-1プロテアーゼを“鍵穴” に例えれば、“鍵穴”にピッタリと合った“鍵”を精密に"分子設計"することとなる。


HIV-1_protease.gif HIV-1プロテアーゼとその阻害剤(ネルフィナビル)の複合体構造

 この“鍵と鍵穴”の相補的関係は物理化学の言葉で言えば、水素結合・静電相互作用・疎水性相互作用など、薬分子とその受容体間に働く分子レベルの相互作用で説明される。そして、これらの相互作用を明らかにする方法としてコンピュータを使った理論・計算化学、情報化学的手法が使用される。コンピュータを使った計算というと一見難しそうに聞こえるかもしれないが、これらの方法によって、今では極めて短時間に薬物分子や生体関連分子の形状や物理化学的性質を予測でき、さらに定量的構造活性相関解析により薬物の生理活性の強さをその化学構造から定量的に予測することが可能である。

 2003年のヒトゲノム解読完了宣言以後はポストゲノム時代の到来と言われており、構造生物学分野の技術進展により疾病に関連するタンパク質が次々に同定されている。同時に、近年のコンピュータの飛躍的発展、新規理論やアルゴリズムの開発により上記のような新しい論理的創薬の流れが加速されることが予測される。生体関連分子の構造、機能、反応に関する理論的解析および高精度予測が可能となれば、基礎科学としての生命現象の理解にとどまらず創薬分野における基盤技術としての活用、ブレークスルーに結び付くことが期待される。


 当研究室の現在の主要研究テーマは以下の通りとなります。


  • 薬物−受容体タンパク質複合体の大規模分子科学計算・シミュレーションによる解析
  • 医薬・食品関連分子データベースの構築とケモインフォマティックスおよび機械学習技術の活用による新規化合物の探索
  • バイオインフォマティックス的手法を用いたアポトーシスなどのバイオパスウェイ解析

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最終更新日:2009年8月4日